ホテル・旅館で外国人を雇用する
外国人観光客が急増している中、オリンピックの開催もあり、ホテルや旅館、民泊などの開業が相次いでいます。それに伴ってホテルや旅館での外国人の雇用も増えています。
しかし、外国人にはビザ、在留資格があり、どんな仕事でもどんな外国人でも雇用できるわけではありません。ここでは、仕事の種類に応じてどのような外国人が雇用可能なのかを検討したいと思います。
ホテルや旅館で働くことのできる在留資格
外国人は必ず在留資格を持って日本に在留しています。在留資格は、従事できる仕事が限定されている就労系在留資格と仕事が限定されない身分系在留資格があります。それ以外に、本来は仕事をすることはできない在留資格であるものの資格外活動許可を得ると仕事ができるというものがあります。
就労系在留資格というのは、就労することを目的とした在留資格です。したがって、その在留資格によって就労できる仕事の種類が決まっているのです。
ホテル・旅館で働ける就労系在留資格
ホテルや旅館で働くことができる就労資格は4種類あります。
「技術・人文知識・国際業務」ビザは、大学などで勉強した知識や技術を活かした仕事をするためのビザで、ホテルや旅館では、フロント業務、通訳・翻訳業務、営業・マーケティング業務などで、その他事務職(経理、総務、人事、法務など)についても就労できる可能性があります。
「技能」ビザのうち調理師についてもホテルや旅館で就労できる可能性があります。もしホテルに外国ならではのレストラン(中華レストランやイタリアンレストランなど)があれば、その分野で10年以上の経験のある外国人であれば就労できます。
ただし、その分野(中華とかイタリアンとか)の調理師しかできませんので、いろいろや料理を出すようなレストランの場合であっても、その分野の調理に専念しなくてはなりません。
一方、2019年4月に新しく創設された「特定技能」のうち宿泊分野については、ホテルや旅館の「フロント、企画・広報、接客及びレストランサービス等の宿泊サービスの提供に係る業務」とされています。
ホテルや旅館の仕事のうち、掃除やベッドメイキングについては、「特定技能」の宿泊分野では従事することができません。これとは別の「特定技能」ビルクリーニング分野のビザが必要です。
身分系在留資格はどんな仕事でもできる
身分系在留資格は、「永住者」「特別永住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」といったビザになります。これらのビザは就労制限がありませんので、風俗業を含むどんな仕事でもすることができます。
もちろん、ホテル・旅館の全ての仕事の従事することができます。
「留学」や「家族滞在」ビザでパートやアルバイトをするには資格外活動許可が必要
「留学」や「家族滞在」ビザでは、基本的には就労することができませんが、資格外活動許可を得ることによって、週に28時間まで、風俗業を除くほとんどの業務で就労することができます。
ホテルや旅館で働くために就労系在留資格を取得する
ここからは、就労系在留資格について詳しく検討したいと思います。上述した通り、ホテルや旅館で働くことのできる就労系在留資格には、「技術・人文知識・国際業務」と、「技能」の調理師、そして「特定技能」の宿泊分野とビルクリーニング分野があります。
「技能」の調理師については別の記事で詳しく解説していますので、ここでは「技術・人文知識・国際業務」と「特定技能」について検討します。
「技術・人文知識・国際業務」ビザでホテルや旅館で働く
「技術・人文知識・国際業務」ビザは、就労ビザの代表格で非常に幅広い業務を行うことができますが、基本的にはホワイトカラーの仕事に従事するものであり、いわゆる単純業務とみなされるような仕事をすることはできません。
たとえばホテルや旅館の仕事であれば、清掃やベッドメイキング、駐車場係、レストラン、売店、荷物運びといった業務は「技術・人文知識・国際業務」ビザで行うことができません。
「技術・人文知識・国際業務」ビザでできる業務
では、逆に「技術・人文知識・国際業務」ビザで行うことができる業務にはどういうものがあるでしょうか。
参考になる資料に、旧入国管理局によって作成されたホテル・旅館等において外国人が就労する場合の在留資格の明確化についてという文書があります。
この文書には実際の許可事例が掲載されていますので、この文書からどのような業務が許可されたのかをピックアップしてみます。
- 外国語を用いたフロント業務
- 外国人観光客担当としてのホテル内の施設案内業務
- 集客拡大のための本国旅行会社との交渉にあたっての通訳・翻訳業務
- 従業員に対する外国語指導の業務
- 集客拡大のためのマーケティングリサーチ
- 外国人観光客向けの宣伝媒体(ホームページなど)作成などの広報業務
- 外国人観光客からの要望対応
- 宿泊プランの企画立案業務
- 外国語版ホームページの作成
- 館内案内の多言語表示への対応のための翻訳等の業務
- レストランのコンセプトデザイン
- 宣伝・広報に係る業務
大まかに大別すると、フロント業務、マーケティング業務、通訳・翻訳業務といったところになります。このような業務であれば「技術・人文知識・国際業務」ビザで行うことができます。またここには例がありませんが、コンシェルジュについてもここに含まれるのではないかと思われます。
ホテルや旅館で「技術・人文知識・国際業務」ビザを申請することのできる外国人
「技術・人文知識・国際業務」ビザを取得するためには、その外国人の学歴や職歴に関する基準を満たさなくてはなりません。
基本的には大学(短大や大学院を含む)を卒業しているか、日本の専門学校で観光・ホテルなどを専攻している必要があります。大学の専攻についてはあまり問われません。当事務所でも大学院で土木を専攻していた人がホテルでビザを取った実績があります。
また、ホテルのフロントやマーケティング、マネジメント等で10年以上の経験がある場合も基準を満たしていることになります。
「技術・人文知識・国際業務」ビザの申請については他の記事で詳しく解説していますので、下記のリンクからご覧ください。
ホテルや旅館で「技術・人文知識・国際業務」ビザを申請する場合の必要書類
- 申請書(在留資格認定証明書交付申請書または在留資格変更許可申請書)
- 写真 H4cm x W3cm
- パスポートのコピー(在留資格認定証明書交付申請の場合)
- パスポート・・・提示(在留資格変更許可申請の場合)
- 在留カード・・・提示 (在留資格変更許可申請の場合)
- 大学や専門学校の卒業証書(学歴に基づいて申請する場合)
- 専門士を称する証明書(専門学校卒業生の場合)
- 成績証明書(専門学校卒業生の場合)
- 実務経験10年以上を証明する在職証明書(実務経験に基づいて申請する場合)
- 雇用契約書または雇用条件通知書のコピー(申請人の署名または捺印のあるもの)
- 採用理由書
- (上場企業の場合)四季報の写しまたは証券取引所に上場していることを証明する文書のコピー
- (上記以外)前年分の職員の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表(税務署の受付印のあるものの写し)
- 決算書
- 登記事項証明書(登記簿)
- ホテル・旅館のホームページのコピーやパンフレット
- 外国人顧客が多いことを立証できる何等かの書類(最近はあまり求められない)
ホテルや旅館で「特定技能」外国人を雇用する
2019年4月に新たな在留資格として「特定技能」が創設されました。これは人手不足が深刻な13業種で、これまで以上に柔軟に外国人を雇用できるようにするものです。
残念ながら最近の日本政府が行うこのような行政の例にもれず、実際に蓋を開けたところ非常に使い勝手の悪い制度となってしまいましたが、それでもこれまで認められなかった幅広い業務で外国人の雇用が認められたというのは、日本の外国人行政にとって画期的なものであることには間違いありません。
今後、幅広く利用されるためにも、より柔軟性のある制度へと発展していくことを願います。
「特定技能」外国人の条件
「特定技能」で外国人を雇用するためには、その外国人についての基準以上に、雇用するホテルや旅館の体制づくりや計画が重視されますが、それらについては別の記事で解説したいと思います。
ここでは、その外国人に求められる基準について説明します。
全ての分野の「特定技能」に共通の基準として、まずは、その外国人は一定の日本語の試験と業務の試験に合格する必要があります。
日本語の試験については、JLPT N4以上か、「特定技能」のために設けられる試験があります。また、技能試験については宿泊分野の試験があります。
宿泊分野の試験については、一般社団法人 宿泊業技能試験センターのホームページで詳細と申し込みができます。なお、試験は日本や海外で行われますが、決まった時期に行われるのではなく、突発的にスケジュールが公開されています。
これら2つの試験に合格した外国人が、「特定技能」外国人を雇用するホテルや旅館に雇用されることが決定した後に、そのホテルや旅館とともに、在留資格認定証明書交付申請(海外から呼び寄せる場合)や在留資格変更許可申請(日本に在留する外国人を雇用する場合)を行って、当該外国人に「特定技能」ビザを付与させることになります。
「特定技能」ビザ、宿泊分野
「特定技能」ビザのうち宿泊分野は、外国人がホテルや旅館で働くことを目的としたビザです。仕事の内容は「宿泊施設におけるフロント、企画・広報、接客及びレストランサービス等の宿泊サービスの提供に係る業務」とされています。
ここには、「技術・人文知識・国際業務」ビザと重なる部分がありますが、「技術・人文知識・国際業務」ビザではできない、ドア係、ベル係、クローク、売店、レストランの配膳などの仕事は、このビザならではのものになると思われます。
「特定技能」ビザ、ビルクリーニング分野
ホテルや旅館でもっとも人手不足と思われる業務に清掃とベッドメイキングがあります。これについては、「特定技能」ビザの宿泊分野ではなく、ビルクリーニング分野での対応になります。
法務省の運用要領によるとビルクリーニング分野は以下のような仕事をすることを想定しています。
多数の利用者が利用する建築物 (住宅を除く。)の内部を対象に,衛生的環境の保護,美観の維持,安全の確保及び保 全の向上を目的として,場所,部位,建材,汚れ等の違いに対し,方法,洗剤及び用具 を適切に選択して清掃作業を行い,建築物に存在する環境上の汚染物質を排除し,清潔 さを維持する業務
基本的に清掃だけの仕事であり、ベッドメイキングは含まれていなさそうですが、通常、ホテルでは清掃とベッドメイキングは同じ部門、同じ人が担当しており、これを別の人に担当させるのは現実的ではないでしょう。
ビルクリーニングの技能試験については、公益社団法人 全国ビルメンテナンス協会のホームページで詳細をご覧いただけます。